遺言書に関するご相談の中でも聞かれることが多い「押印」について。法律ではどのように定められているのでしょうか。実務上の取り扱いについてもご紹介いたします。
目次
1、自筆証書遺言の成立要件
まず、自筆証書遺言の成立要件は法律ではどのように定められているのでしょうか。
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。 | ||
(民法968条①) | ||
シンプルに表現してあるので分かりやすい条文なのですが、改めて要件を分解してみますと下記4つになります。
- 全文を自分で手書きする
- 日付を入れる
- 遺言者の氏名を入れる
- 押印する
2、自筆証書遺言に押印する印鑑
上記要件では印鑑に関する部分は最後の4.ですね。
民法の条文では「印を押さなければならない」としか書かれていませんので、印鑑の種類については特に決まりがあるわけではなく、遺言者が自由に決めてくださいということになります。
ですから100均で買ってきた認印でも、遺言書にちゃんと押印してあれば有効ですね。もちろん押印がなければそれは無効になります。
印鑑の種類については特に決まりがないと書きましたが、実は過去にこんな判例があります。
自筆遺言証書における押印は、指印をもつて足りる。 | ||
(平成元年2月16日最高裁判所判例) | ||
印鑑ではなく指印でも有効と判断されているんですね。
そもそも自筆証書遺言の成立要件として押印が求められる趣旨は、遺言者本人が書いたものか(=同一性)、本心で書かれたものであるか(=真意)の確保、そして重要文書は作成者が署名して押印することで文書の作成を完結させるという「日本の慣行・法意識」にあります。
日本では通常、指印があれば印鑑で押印してあるのと同等の意義が認められており、必要以上に方式を厳格にしてしまうと、かえって遺言者の真意を阻害してしまう恐れもあります。
指印であれ100均の認印であれ、趣旨に反することにはならないし、印影の対照以外の方法でも本人の押印であることの立証は可能であると、裁判所は判断しているわけです。
3、自筆証書遺言への押印は実印にしましょう
ここまでの説明だと、押印に関してはかなりゆるい規定になっている印象があると思います。
指印でも有効とされているくらいですから。
遺言書の作成支援をさせて頂いている者として実務上はどのようにしているかというと、遺言書への押印は実印をおすすめしています。
遺言書というのはご自身の想いを実現したいという最後の意思表示であり、法律上も認められている重要文書です。その大切な文書をより確実なものにしたいのであれば、仮に指印や認印が有効であると判断されるにしても、やはり実印で押印しておくべきです。
可能であれば、実印での押印とあわせて印鑑証明書も遺言書と共に同封しておくと更によいですよ。
亡くなってしまったら指印も本人のものか確認しようがないですし、認印もそれは同じですが、そのことで疑義が生じてしまうような可能性を押印で発生させるべきではないと思うからです。
繰り返しになりますが、自筆証書遺言へは実印で押印しましょう。
4、遺言書のどの部分に押印するか
それではその押印は遺言書のどの部分にするのかですが、ほとんど場合は氏名のすぐ横、あるいは下だと思いますが、その場所で問題ありません。
遺 言 書 | ||
(本文) | ||
令和○年○月○日 遺言者○○○○ 印 |
||
押印の場所についても、法律上特に規定されていませんのでどこに押印しても自由なのですが、通常の感覚からしても遺言書が横書きの場合は氏名の右隣、縦書きの場合は氏名の下に押印するのではないでしょうか。
それが例えばタイトルである「遺言書」の隣とか、全然関係ない余白部分に突然押印されていると、本当に本人が押印したのだろうか・・・と疑問に思われてしまう可能性もありますね。
ですから押印の場所については、氏名の横あるいは下にしておくのがベストです。
5、公正証書遺言の場合はどうか
一方で公正証書遺言を作成する場合はどのようになるのかというと、「実印+印鑑証明書」が必要になります。
実印をお持ちでない人(印鑑登録をされていない人)は「マイナンバーカード(顔写真付きの公的証明書類)+認印」で良いケースが多いですが、公証役場によっては印鑑登録手続きをした上で「実印+印鑑証明書」を提出するように言われる場合もあるようです。
もし印鑑登録をしておらず実印をお持ちでない場合は公証役場に事前に確認をしてみてください。
6、まとめ
今回は遺言書に押印する際の印鑑についてご紹介しました。法律上は押印の印鑑について厳密に定められてはいませんが、後々に遺言者本人が押印したのか、真意で書かれたものなのかという疑いが起こったり、無駄な争いにならないように、自筆証書遺言、公正証書遺言ともに「実印」での押印と同時に「印鑑証明書」も準備しておきましょう。
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