遺言書は、自分が亡くなったときに、自分以外の人に財産を承継させる力があります。通常は親から子へというふうに、上の年代から下の年代へという流れになりますので、受け取る側が先に亡くなるのは想定されていないかもしれません。しかし、現実の世界ではそうとは限りません。例えば、不慮の事故や病気などで親よりも子が先に亡くなってしまうこともあるかもしれませんし、親から子へというのではなくて、遺言によって同年代の知人に財産を渡したい場合も、どちらが先に亡くなるかというのは分かりません。このような場合に遺言書の効力はどうなるのか、またその対策はあるのかという点を解説したいと思います。
目次
受遺者とは何か
遺言によって相続人や相続人以外の人に財産を渡すことを「遺贈(いぞう)」、遺贈を受ける人を「受遺者(じゅいしゃ)」と言います。細かい話しになりますが受遺者は下記の2パターンに分かれます。
- 遺言者によって財産の遺贈を受ける特定の相続人(推定相続人)。
- それ以外(例えば、息子の配偶者や知人など)。
法律的には上記の両方の意味ですが、一般的に「受遺者」というと2つ目のパターンとして表現することが多いです。
受遺者が遺言者より先に死亡している場合は無効になります
法律では、次のように規定しています。
「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。」 | |||
(民法994条①) | |||
遺贈というのは、遺言者が亡くなったことによって、直接受遺者に財産を承継させるものですから、遺言者が亡くなったときに受遺者が存在している必要があります。
その受遺者が既にいないのであればその遺言は無効になる、ということですね。
一方で、こんな規定もあります。
「被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したときは(~省略~)その者の子がこれを代襲して相続人となる。(~省略~)」 | |||
(民法887条①) | |||
いわゆる代襲相続という問題です。
相続させる旨の遺言があり、財産を承継されるべき相続人が、被相続人より先に亡くなった場合には、代襲相続が行われるのか、それとも、この遺言は無効になるのか。
この点については法律上の明文の規定はありませんが、最高裁判所において平成23年2月22日に判断がされている事件があります。
「遺産を特定の推定相続人に単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定する「相続させる」旨の遺言は,当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから,遺言者が,上記の場合には,当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り,その効力を生ずることはない。」続人の子が、相続の開始以前に死亡したときは~省略~その者の子がこれを代襲して相続人となる。~省略~」 | |||
(裁判所HPより引用) | |||
結論としては、やっぱり無効ですよ、ということです。
ただし、受遺者が先に亡くなった場合は代襲者など別の人に相続させる記載をしていれば、それは有効になります。
無効になった財産はどうなるのか
ところで、受遺者が遺言者より先に亡くなってしまった場合の財産はどのようになるのでしょうか。
このような場合には、いったん法定相続人に法定相続分で承継され、次に遺産分割協議により、具体的に承継されることになります。
遺産分割協議になるということは、遺言者自身の希望していた相続とは異なる分割結果になる可能性がありますし、普段から疎遠な法定相続人がいるかもしれず、金額や内容面で揉めるリスクが発生してしまうことは想定しておきましょう。
受遺者が遺言者より先に死亡してしまった場合の対処方法
それでは、受遺者が遺言者より先に亡くなってしまった場合どうすればよいかというと、
- 新しく遺言書を書きなおす
これが一番です。遺言書は一度書いただけで効力が確定するものではなく、何度でも書きなおせます。何度も書きなおした結果、遺言書が複数になってしまった場合は最も新しい日付の遺言書が有効となります。
ただし何度も書きなおしていると、どの遺言書が最新のものか分からなくなってしまう恐れもありますから、書きなおした時には古い遺言書を破棄するなどして、最新の遺言書のみを残しておくようにきちんと管理しておきましょう。
公正証書で作成した場合も変更点のみを修正することも可能ですが、やはり新しく作り直した方が間違いありませんし、公証人にもそのように提案されます。
推定相続人の死亡により遺言が無効になった場合は、新しく遺言書を書きなおすことで対処しましょう。
受遺者が遺言者より先に死亡してしまうことも考えた対策
大切なのは、事が起こってから対処するのでは遅く、やはり事前に対策を講じておくべきであり、遺言書作成に関与している専門家が一番大切にしているのもこの部分です。
受遺者が遺言者よりも先に亡くなってしまっても失効させない方法があります。
それが「予備的遺言」です。
先にご紹介した最高裁判所の判例でもあったように、受遺者が亡くなってしまった場合の財産の承継先をあらかじめ遺言書に盛り込んでおくということです。
具体例でいうと、下記のような文言でOKです。
「全財産を妻〇〇に相続させる。ただし、〇〇が私と同時もしくは私の死亡以前に亡くなった場合は、長男△△に相続させる。」 | |||
どのような場合に、どの財産を、誰に相続させたいのかを明確に表現するのがポイントです。
まとめ
遺言は、生前のうちに財産の承継先を決めておける優れた制度です。ただし、遺言書自体を作ることが目的になってしまうと案外見落としてしまう部分もあると思います。
財産を誰に相続してもらいたいか、最終的にはどのように活用してほしいかなど、しっかりとご自身の想いを持っていただき、予備的遺言も含めて作成して頂ければ幸いです。
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