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京都府向日市、長岡京市を中心に公正証書遺言の作成支援をしております行政書士の林宏雄です。
今回のテーマは「付言事項の文例とポイント」について。
遺言書というのは、自分の財産について誰に何を残したいのか、最終の意思表示をするものですので、財産に関する部分がきちんと記載されていれば法的な効力を持ちます。
法的に有効ではあっても、すべての相続人にとってその遺言内容が納得できるものとは限りません。
遺留分(「遺留分って何?」参照)といって遺言者の意思とは関係なく相続人(一部)に絶対保証される相続分があり、それさえも侵害されることになれば納得いかない相続人がいてもおかしくはありません。
ただ、遺言書が開封されるのは遺言者が亡くなった後であって口頭で遺言内容の説明ができないため、こうした納得できない相続人が出てくるかもしれない場合に備えて少しでも遺言者の思いを伝える役割として付言事項があります。
法的な効力はないものの、相続人である子が親の気持ちを理解できれば遺言内容に納得する可能性も広がります。
付言事項は上記以外でも面と向かっては伝えられなかった感謝の気持ちや、自分が亡くなったあとの希望などを自由に書くことができますのでいくつかのパターンを文例と共にご紹介したいと思います。
目次
1,遺留分を侵害する財産の分け方をしている場合
【付言事項】
遺言者は、次男○○が、交通事故により重度の障害を負ったことにより、今後働くことできず、また年少者でもあることから、今後、一人で生活することが困難な状況になるため、その生活を支援する必要がある。したがって、遺言者の遺産全ては次男○○に相続させることにした。長男□□は、以上の事情をよく理解し、遺留分侵害額請求権を行使しないことを強く望む。
本条項例は、一部の相続人に対して、支援する必要があるなどの理由から、他の相続人の遺留分を侵害する程度に手厚く遺産を相続させたい場合に、そのような遺言を作成することにした事情を説明して他の相続人に対して遺留分侵害額請求権の行使を自粛してほしい場合の条項例になります。
2,遺言書を作成するに至った思い等を説明する場合
【付言事項】
長男○○夫婦は、遺言者と同居して、私の世話をしてくれていたが、長男○○が2年前に亡くなったあとも、長男○○の妻□□は、その後も遺言者と妻のお世話をしてくれており、今後も老後の世話をすると言ってくれている。
そのことに関し、遺言者は長男○○の妻□□に対し心から感謝している。
したがって、遺言者は妻□□に対し、下記のとおり遺言を残すことにした。
【付言事項】
遺言者は、長男○○が定職に就き、収入が安定している一方、次男△△は要介護者であり、配偶者もいないことから、万が一のことに備え、財産を残しておく必要があると考え、今回遺言を残し、遺言者の財産を相続させることにした。私の考えを理解し、相続に関して、決して争うことなくいつまでも仲良く幸せに暮らしてほしい。
本条項例は、遺言を作成するに至った思い等を説明する場合の条項例です。
遺言を作成するに至った思いや、家族やその他の関係者に対する感謝やお詫びは付言事項であって相続人を法的に拘束するものではありませんが、例えば一見すると不平等に見えるような内容であっても、そのような遺言を作成するに至った思いを丁寧に述べておくことで、遺族にその想いを理解してもらうことが可能となり、結果として相続人の間での必要のない争いを起こさないことにつながります。
3,SNSアカウントの削除を希望する場合
【付言事項】
第○条 遺言者が遺言者本人名義でFacebook、Twitter、Instagramに登録しているアカウントについては、相続人らにおいて削除の手続を行うこと。
2 前項の手続については、遺言執行者が遺言者の相続人らの代わりにこれを代行することができる。
3 第1項の手続に要した費用は、相続財産からこれを支弁する。
代表的なSNSであるFacebookやTwitter、Instagramのアカウントについて、死亡後にアカウントの削除を行うことについて遺言する場合の条項例です。
各SNSアカウントの死亡後の取り扱いについては、各社ホームページに必要となる証明書類等の案内があるので、個別に調べて確認しておくとよいでしょう。
SNSアカウントの死亡後の手続きについては特定の相続人あるいは遺言執行者に委ねる方が円滑に進むのであれば、付言事項として記載しておく方が望ましいです。
4,家族への介護や養育等を望む場合
【付言事項】
遺言者は、妻○○及び長男△△に対し、遺言者の母□□の介護をしてほしいと考えている。そのため、本件遺言を作成したのであるから、その趣旨を理解し、母□□が遺言者の亡き後も穏やかに暮らせるよう二人で協力して母□□の介護をするよう希望する。
本条項例は、家族への介護や養育等を望む場合の条項例です。
このような条項も付言事項であり、相続人を法的に拘束するものではありませんが、そうであるからこそ、そのような遺言を残すに至った思いを丁寧に述べておくことで、遺族にその思いを理解してもらいやすくなります。
5,事業に関する希望をする場合
【付言事項】
遺言者は、株式会社○○○○の代表取締役として、先代が築き上げた下記経営理念を忠実に実行してきた。その結果、役員および従業員のおかげでここまで当社が発展することができたのである。今後の会社の経営にあたっても、これまでどおり当社の経営理念を守り、経営に日々まい進してもらいたい。
株式会社○○○○経営理念
・□□
・△△
遺言者が会社経営者であった場合、残された役員や従業員に対し、自身が経営してきた会社に対する想いや今後どのような気持ちで経営にあたってもらいたいかの気持ちや希望を明らかにして、その遺志を実現させるという効果を期待して、このような遺言を残すのもよいでしょう。
6,相続人全員に相続放棄を促したい場合
【付言事項】
遺言者は、遺言者のこれまで形成してきた財産に負債が多く、各相続人に負担させることは妥当ではないと考えるため、相続人全員が相続放棄をすることを希望する。
相続債務は各相続人が平等の割合で承継しますので、プラスの財産よりもマイナスの財産の方が多い場合には、各相続人が自らの財産で相続債務を弁済しなければなりません。マイナスの財産の方が明らかに多い場合には、本条項例のように相続人全員に対し、相続放棄を促すことになりますが、これも付言事項として法的な拘束力は持ちません。
なお、相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内という短い期間に家庭裁判所に申述する必要がありますので、遺言者はあらかじめ口頭で自身の債務が多いことや相続人に相続放棄の申述をしてほしい旨を伝えておいたほうが相続人にとってもよいでしょう。
まとめ
付言事項として記載する文例とポイントをご紹介しました。
上記はあくまで一例であり、上記のほか様々なケースが有り、自由に記載することができます。
ただし、付言事項をたくさん書きすぎても財産をどのように分けるかという遺言の主目的からずれてしまい、かえって相続人を混乱させてしまう恐れもありますので、そのあたりは配慮する必要があります。
付言事項を残したい方のご参考になれば幸いです。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
行政書士はやし行政法務事務所
代表行政書士 林 宏雄
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