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全財産を配偶者に相続させたい場合の遺言書

人が亡くなると相続が発生し、遺産は相続人へと引き継がれていきます。

 

相続の方法としては

  1. 遺言書
  2. 遺産分割協議
  3. 法定相続

という3つの方法がありますが、自身の財産を全て配偶者に相続させたいのであれば間違いなく「遺言書」を書いておくことが一番良い方法となります。


目次

1,そもそも全財産を配偶者に相続させる内容の遺言は有効なのか

民法の定める遺言書の要件を満たしている以上、有効となります。

 

逆に法律が定める一定の方式に反するような要件を満たさない場合は、残念ながら遺言は無効となってしまいます。

 

また、遺言の方式に問題がなかったとしても、相続人の中には、遺言者が遺言を作成する時点で判断能力がなかったとして遺言の無効を主張することがあります。

 

一般的に作られている遺言書としては「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」がありますが、確実に配偶者に財産を残したいとお考えの場合は、①方式違反、②判断能力の点で遺言が無効になる確率が極めて低い「公正証書遺言」の作成ををお勧めいたします。

 

2,遺言書を書いておかないとどうなる?

 亡くなられた方に配偶者と子供がいる場合は、配偶者と子供が法定相続人になります。

 

そのような場合、配偶者の法定相続分は遺産の2分の1、子供の法定相続分は遺産の2分の1となります。

 

子供が複数いる場合は遺産の2分の1を子供の数で均等に分割します。(子供が2人であれば、それぞれ4分の1ずつとなります)。

 

例えば、遺産が2,000万円あり,妻と子供2人の計3人が法定相続人の場合、妻の法定相続分は遺産の2分の1ですので1,000万円、子供の法定相続分は500万円ずつとなります。

 

このように、遺言を作成していないと、お子様方に財産の半分が相続される可能性があります。

 

遺産分割協議で妻が全財産を相続することで全員が合意すれば別ですが、それは夫が決めるのではなく残された相続人の判断によるしかありません。

 

したがって、ご自身の意思において配偶者に全財産を相続させたい場合は遺言書を書いておくことが一番良い方法ということになります。

 

3,避けては通れない「遺留分」問題

遺留分とは、一定の相続人に保証された「最低限受け取れる権利」のことです。

 

遺留分は法律で定められている権利ですので、その人に保証された遺留分の侵害額について請求されてしまうと、一定の支払いは必要になります。

 

なお、兄弟姉妹には、遺留分侵害額請求権ありません。相続人が、妻以外に兄弟姉妹だけであれば、遺留分を心配する必要はありません。

 

配偶者に全財産を相続させる内容の遺言の場合、子供たちの遺留分を侵害することになり、子供たちから遺留分侵害額請求をされてしまうと、基本的には侵害額に相当する金銭を払わなければなりません

 

配偶者ではなく1人の子供に全財産を相続させる場合もまた同様に、配偶者や他の子供の遺留分を侵害することになりえます。

 

このように遺留分を侵害している場合は遺留分侵害額請求として金銭の請求をされることになります。

 

ただし、遺留分は、法定相続分を超える財産を受けた相続人に対して遺留分侵害額請求権行使することで初めて発生します。遺留分侵害額請求権は、相続の開始及び遺贈・贈与を知った時から発生し、この日から1年時効を迎えます。

 

意図的に請求しない場合や、時効を迎えた場合には、遺留分を渡す必要はありません。

 

4,各相続人の遺留分の割合

ここで、相続財産全体に占める遺留分の割合は相続人のパターンによって異なりますので整理しておきます。

相続人 遺留分合計

配偶者の

遺留分

子供の

遺留分

親の

遺留分

兄弟の

遺留分

配偶者のみ 1/2 1/2 - - -
配偶者+子供 1/2 1/4 1/4 - -
配偶者+親 1/2 1/3 - 1/6 -
配偶者+兄弟 1/2 1/2 - - -
子供のみ 1/2 - 1/2 - -
親のみ 1/3 - - 1/3 -
兄弟のみ - - -

先ほどの例で相続人が配偶者と子供2人の場合、遺留分の合計は遺産の2分の1です。配偶者の遺留分は遺留分の合計(2分の1)の2分の1ですので、遺産の4分の1となります。子供1人あたりの遺留分は遺留分の合計(2分の1)の2分の1の更に2分の1ですので、遺産の8分の1となります。

遺産合計が2,000万円だとすると、配偶者は少なくとも500万円、子供1人あたり250万円を受け取ることができます。

 

5,遺留分対策として考えられる4つの方法

①遺留分でもめないように生前に話し合っておく

 

生前に家族でよく話し合い、妻へ全財産を相続させることについて納得してもらうことが、相続が発生した後にもめないようにする対策となります。

 

相続人になる者には順番があります。必ず相続人となるのが配偶者で、子供がいればその子供が相続人に、子供がいなければ両親が、両親もいなければ兄弟姉妹が相続人となります。

 

そのため、子供がいる場合は両親との話し合いはする必要がありません。

 

また、子供が相続人となる場合は、配偶者が相続したほうが相続税対策になり、母親が亡くなればその財産を相続できることから、こじれる心配はそれほどないと思われます。

 

いきなり遺言書で明らかになると、不満が生まれやすくトラブルになってしまうケースもあります。生前に話し合う場を設けておき、あなたの気持ちや考えをしっかりと子供たちなど遺される者へ伝えておくことは、後々の手続をスムーズに行う上では大変重要になります。

 

②付言事項でメッセージを残す

 

付言事項とは、遺言において「感謝の気持ち」や「遺言を書いた経緯」など相続人に残したい言葉などを伝えられるものです。

 

遺言の本文では具体的な財産の分割方法などの重要なことを書きますが、付言事項には「家族が助け合っていくように」「お母さんを大事にするように」「兄弟仲良くするように」などの遺言者の想いや、特定の相続人に生前に贈与した内容等を書き残すことができます。

 

付言事項は、このように遺言者の想い等を記載するものなので、法的な効力があるわけではありませんが、とても重要な役割を持っています。

 

付言事項を残すことで、相続人が遺言者の想いを理解し、相続争いに発展することを防げることもあります。

 

また、相続人が既に充分な財産をもらっていることを自覚して、遺留分の請求を思いとどまることにもつながるかもしれません。

 

③相続財産の総額を減らす

 

遺留分は「遺産の〇分の〇」などの割合で計算されます。

 

そこで母体となる遺産額を減らせば遺留分も減らせますので、遺留分トラブルを未然に防ぐため、できるだけ生前贈与したり自ら使ったりして相続させる遺産を減らしておきましょう。

 

ただし相続人への生前贈与の場合「死亡前10年間」のものは遺留分侵害額請求の対象になります。

 

また死亡前10年間の生前贈与は相続人の「特別受益」にもなるので、遺産分割協議の際にトラブルになるリスクもありますので、なるべく早い内から計画的に行いましょう。

 

④生命保険を活用する

 

死亡保険金相続財産の対象に入らず、遺留分算定の基礎になりません。

 

ですので、現金で保有しておくより、貯蓄型の生命保険に加入しておくことで、遺留分算定のもとになる遺産総額を減少させることができます。

 

ただし、遺産額に比して過大な保険金である場合は、遺留分算定のもとになると裁判所に判断されたケースもあるので注意が必要です。

 

6,全財産を配偶者に相続させたい場合の遺言書の書き方

以下のような家族構成で、夫が妻に全財産を相続させる遺言書の書き方として一例をご紹介します。

【遺言者・・・甲野太郎(夫)、配偶者・・・甲野花子(妻)、長男・・・甲野一郎、長女・・・甲野春子】

 

7,まとめ

「妻に自分の全財産を相続させる」「子供にだけ全財産を譲る」といった遺言書も有効ではありますが、後々、遺留分をめぐって争いになる可能性がゼロではありません。

 

トラブルを未然に防ぎ、かつ、指定の人物にできるだけ全財産を相続させるためには、以下のポイントを抑えるとよいでしょう。

  1. 配偶者に全財産を残したい場合は必ず遺言書を作成する。遺言が無効になる確率が極めて低い公正証書により作成するのがベスト。
  2. 配偶者など特定の者に全財産を相続させる内容の遺言だと、遺留分侵害の問題が生じる可能性がある。
  3. 遺留分対策としては,①生前の話し合い、②付言事項を残す、③相続財産自体を少なくしておく,④生命保険を活用するなどの方法がある。

以上のとおり、遺言においてトラブルを未然に防ぐための対応策も含めて,配偶者に全財産を相続させるために気をつけたい点は多岐にわたります。より確実で安心できる遺言書にするためには法律の専門職への相談や手続きに関与してもらうことも選択肢の一つです。

 

 

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

 

行政書士はやし行政法務事務所

代表行政書士 林 宏雄

 

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京都府行政書士会会員(第2655号)

 

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