作成した遺言書をどのように保管するかということは、中身を書くときと同じぐらい大切な問題になります。
せっかく思いを込めて作成したとしても、その遺言書が発見されなければ無駄になってしまいますし、そもそも遺言書があること自体を相続人が知らなければ発見される可能性も低くなります。
仮に発見されたとしても、その状態によっては変造、破棄、隠匿されるリスクや、紛失してしまうことだって無いとは言い切れません。
いずれにしても作成した遺言書が効力を発揮するのは自身が亡くなった後であり、自分ではどうすることもできない以上、きちんと保管、管理をすることが大事になります。
今回は遺言書の保管方法についてそれぞれのメリット・デメリットも含めてご紹介します。
目次
1,自宅で保管する
遺言書の保管方法として、まず最初に思いつくのはこの方法ではないでしょうか。
作成した本人がそのまま自分で保管したり、配偶者へ預けたりすることもあるかもしれません。
●メリット
- 一番手間がかからない方法です。
- 書き直しがいつでもできる。
- お金がかかりません。
●デメリット
- 紛失、破損、変造、破棄、隠匿の恐れがある。
- 発見されない恐れがある。
- 家庭裁判所の検認手続きが必要。
手間やお金がかからない分、注意すべき点はどうしても多くなります。
ご自身の意思をせっかく遺言書として形にしたのに、その思いが実行されないのは辛いですね。
そうしたリスクがある「ご自宅で保管する」という方法はあまりお勧めできないのが本音です。
遺言書に限らずエンディングノートを作っていたり、きちんとした形で保管できるという自信がある方のために、自筆証書遺言を作成・保管をする上で大切なポイント7つをお伝えします。
✅中身(内容)が法的に有効かどうか、専門家のチェックを受けてください。
作成した遺言書が法的に有効かどうかは一番大切な問題です。民法で遺言の方式は厳格に決められておりますので、いくら一生懸命つくっても形式不備や解釈に疑義が生じてしまう表現が使われていれば争いになる可能性もあります。
✅作成した遺言書に印鑑証明書を添えて一緒に二重封筒に入れましょう。
丁寧な印象になって信用されやすくなる効果があり、中身が見えづらいため発見者に内容を知られにくくなる効果も期待できます。
後に触れますが、押印箇所には全て実印で押印し印鑑証明書を同封しておくと良いです。
✅封筒の表面に「遺言書」や「遺言書在中」と書いておく。
発見者が遺言書とわかるようにしておくためです。何も書いていないと紛失したり、誤って処分してしまう恐れがあります。
✅封筒の裏面に「日付」「署名押印」「開封前に必ず家庭裁判所で検認を受けてください」と書いておきましょう。
記入義務はありませんが、日付、署名押印は やはり丁寧な印象がありますし、検認手続きに関する法律上のルールを知らない方もたくさんいらっしゃいますので注意を促す意味で書いておいた方が良いです。ちなみに、検認を受けずに開封してしまうと開封者には「5万円以下の過料」というペナルティ(民法第1005条)が課される可能性があります。
✅遺言書を封筒に入れたら必ず「封印」しましょう。
封印というのは、封筒に押印することです。法律上の要件ではありませんが、やはり丁寧な印象を与えて信用してもらいやすくなる効果があります。
✅全ての押印箇所には印鑑登録されている実印を使いましょう。
遺言書自体はもちろん、封筒裏面の署名押印、封印などは全て同じ実印で押印しておきましょう。
そして印鑑証明書も同封しておいてください。
✅遺言書ができたら、遺言書を書いた事を相続人に伝えておきましょう。
遺言書の存在が誰にも知られなければ、書いていないことと同じですし、そうなると当たり前ですが遺言が執行されることはありません。特定の相続人ではなく、相続人全員に平等に伝えておくのがお勧めです。
2,法務局で保管してもらう
2020年7月10日から、法務局で自筆証書遺言書を保管してもらえるようになりました。
この遺言書保管制度は、高齢化の進展で相続をめぐる紛争が増えてきたことから、それを防止する目的で制定されたのと同時に自宅での保管リスクを軽減するためでもあります。
各地方の法務局に遺言書保管所が設置され、遺言書保管官が配置されます。遺言書を作成した本人が法務局に出向き、遺言書保管官から身元を確認されたのち、自筆証書遺言書の原本を預けることができます。
●メリット
- 遺言書の紛失・廃棄・隠匿・改ざんを防げる
- 遺言の形式要件を満たしているかどうかチェックしてくれる
- 家庭裁判所の検認手続きが不要
- 遺言書が保管されている旨が相続人に通知される
●デメリット
- 遺言書の内容はチェックしてくれない
- 保管の申請は本人が法務局で行う必要がある
- 遺言者の氏名、住所、電話番号などの変更手続きが面倒
自筆証書遺言書保管制度は、従来の自筆証書遺言の問題点をカバーしている点で利用価値は高いといえますが、法務局としてはあくまで遺言書の「保管」に重点を置いているようなので、内容に関して一切関与しない点は承知しておかなければいけません。
(過去記事「使い勝手が良くなる遺言制度と相続をめぐる紛争防止」参照)
3,士業などの専門家に保管してもらう
弁護士や行政書士の中でも遺言・相続を主な業務としている専門家に保管してもらうのも有効です。
保管のみというよりは、遺言書作成の段階から法的なアドバイスや遺言内容を確実に執行してもらえるようなサポートが受けられるのは安心です。
●メリット
- 紛失や改ざんを防止できる。
- 作成段階から法的に有効な遺言書作成サポートを受けられる
- 遺言執行~相続手続きをトータルでしてもらえる。
●デメリット
- 預けた専門家が、遺言者が亡くなった事実を知らされないと、内容の執行ができない。
- 預けた専門家が、遺言者よりも先に亡くなった場合、遺言書の行方が分からなくなる可能性がある。
- 専門家への報酬が発生する。
4,公証役場で保管する
公正証書遺言とは、公証役場の公証人が遺言書を筆記して、証人2名立会いのもと作成され、原本が公証役場に保管される遺言のことです。
公証人というのは裁判官、検事、法務局長などを長く務めた法律専門家です。公証人が作成した公正証書は高い証拠力があり、確実な遺言書を遺したいのであれば公正証書で作成することをお勧めします。
●メリット
- 公証役場で原本保管のため遺言書の紛失・廃棄・隠匿・改ざんを防げる。
- 公証人が作成するため、無効になりにくい。
- 家庭裁判所の検認手続きが不要。
●デメリット
- 遺言者が士業などの支援を受けずに単独で手続きをする場合は本人が公証役場に行き公証人と何度か打ち合わせが必要となり、少々ハードルが高い。
- 遺言書作成時、証人2名の立会いが必要になる。
- 公証役場での手数料が発生する。
5,まとめ
今回の遺言書の保管方法については以下のような方法が考えられます。
- 自宅で(ご自身で)保管する
- 法務局で保管してもらう
- 士業などの専門家に保管してもらう
- 公証役場で保管してもらう
当事務所が考えるベストな方法は、遺言書の作成は専門家の支援を受け、争いが起きないような法的内容の原案をつくり、それを公証役場で作成、保管してもらうという方法です。
いずれの方法もメリット、デメリットがありますが、何のために遺言書を遺すのかという根本に戻り、ご自身の思いが確実に実行され、残された相続人が争うことのないように配慮したいものです。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
行政書士はやし行政法務事務所
代表行政書士 林 宏雄
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