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京都府向日市、長岡京市を中心に公正証書遺言の作成支援をしております行政書士の林宏雄です。
今回のテーマは「相続対策として作成する遺言書のポイントと書き方」について。
相続が開始すると、配偶者や子どもといった法定相続人が法律に定められた相続分(法定相続分と言います)に従って遺産分割協議をすることになります。
生前に、亡くなった方(被相続人と言います)が遺言できる事項について、法律で規定されている方式にきちんと沿った遺言書を作成しておくと、遺言書の効力が優先されることになります。
ルールに沿っていることはもちろんのこと、のこされた相続人に配慮された遺言書を作ることにより、被相続人が希望する相続を実現するとともに、遺産分割協議における相続人同士の争いを防いだりすることも可能になります。
今回の記事では、上記視点にたった遺言書を作るポイントや、当事務所で支援させて頂いた事例もあわせてご紹介したいと思います。
目次
1,遺言をすることで何ができるのか
遺言書をつくり始める前に、遺言でできること、できないことは何か、誰でも作成できるのかなど、押さえておきたい点がいくつかあります。
いきなり作り始めるのではなく、まず上記のようにポイントを押さえながら進めていきましょう。
遺言をすることによって以下のことができます。
- 遺産分割方法の指定(民法908条前段)
- 相続分の指定(民法902条①前段)
- 特定遺贈又は包括遺贈(民法964条)
をすることができ、死後の財産の分割方法を指定したり、財産の処分をすることができます。
上記3つをもう少し詳しく説明すると、
遺産分割方法の指定は、遺言により、特定の財産を特定の相続人に直接帰属させます(相続開始後の遺産分割協議は不要)。例えば、「京都府長岡京市長岡一丁目1番1号の土地を長男に相続させる。預貯金はすべて次男に相続させる。」などです。
相続分の指定は、相続分の割合のみ定め、具体的な相続財産の分け方は相続人の協議に委ねます(相続開始後の遺産分割協議が必要)。例えば、「長男と次男にそれぞれ相続財産の2分の1を相続させる。」という場合。
この場合、相続財産に不動産や預貯金など複数の財産が含まれる場合、遺言書で抽象的に「2分の1」といっても、具体的にどの財産をどの相続人が相続するかは、遺産分割協議を行わないと決まりません。
遺贈とは、遺言により相続財産の一部または全部を無償で与えることをいいます。
包括遺贈は財産の全部又はその割合を遺贈の目的にするもので、例えば「相続財産すべて」(の遺贈)や「相続財産の2分の1」(の遺贈)などです。
特定遺贈は個々に財産を遺贈の目的とするもので、例えば「京都府長岡京市長岡一丁目1番1号所在の土地」(の遺贈)や「相続財産に属する預貯金の全部(特定された複数の財産)」(の遺贈)などです。
法定相続分に従った遺産分割協議では問題が発生したり解決が難しいと思われるものについて、遺言により、適切な財産分割方法を定めることで、被相続人亡き後の、相続人同士の争いを防ぐことができます。
2,有効な遺言をするのに必要な能力
有効な遺言をするためには、遺言者が遺言をする際に、遺言能力を持っていなければいけません。
遺言能力は「15歳に達した者」と民法で規定されているほか、遺言の内容や、遺言をすることによる効果などを理解できる能力というふうに言われています。
実務上で特に問題になるのは「認知症」と診断されている場合です。
ブログやHPなど公に向けて発信するのであれば、認知症と診断されている場合は遺言能力無しと一律に判断されるかもしれません。「かもしれない」というのは、実際は認知機能にやや問題があるとしても、それは年相応であって能力的に問題なしと判断できる場合もあるからです。
何とも微妙な部分ですが、当事務所で支援させて頂く公正証書の場合でも、このあたりの判断は公証人によるというのが実感です。
3,遺言できる事項
遺言は、遺言者の最終意思を法的に実現する重要な行為なので、遺言できる事項は法定されています。
大きく分類すると、身分上の事項に関する事項、相続に関する事項、相続財産の処分に関する事項、遺言執行に関する事項、その他の事項に分類されます。それぞれについて見ていきましょう。
‣身分上の事項に関する事項
身分上の事項に関する事項として挙げられるのは以下の通りです。
- 認知(遺言執行と遺言執行者の選任が必要です)
- 未成年後見人の指定
- 未成年後見監督人の指定
‣相続に関する事項
相続に関する事項として挙げられるのは以下の通りです。
- 推定相続人の排除、排除の取り消し(遺言執行と遺言執行者の選任が必要です)
- 相続分の指定、委託
- 遺産分割の方法の指定、遺産分割の禁止
- 特別受益の持ち戻しの免除
- 共同相続人の担保責任の分担
‣相続財産の処分に関する事項
相続財産の処分に関する事項として挙げられるのは以下の通りです。
- 遺贈(遺言執行は必要ですが遺言執行者の選任は任意)
- 一般社団法人の設立(遺言執行と遺言執行者の選任が必要です)
- 信託の設定(遺言執行と遺言執行者の選任が必要です)
‣遺言執行に関する事項
遺言執行に関する事項として挙げられるのは以下の通りです。
- 遺言執行者の指定、委託
- 遺言執行者が数人いる場合の執行方法に関する定め
- 遺言執行者の報酬に関する定め
‣その他の事項
その他の事項として挙げられるのは以下の通りです。
- 遺言の撤回
- 祭祀主催者の指定
- 生命保険金受取人等の指定
4,遺言書の作成が特に必要な事例
法定相続のルール通りに財産を分けると不都合な場合や遺産分割協議で争いになりそうな場合には、遺言書作成の必要性が高くなります。
具体的な事例を以下に挙げてみますので、当てはまる人は遺言書を作成しておきましょう。
‣子がいない夫婦のみの場合
夫婦の一方が亡くなることにより、のこされた配偶者は被相続人の親と相続関係に、また親が既に亡くなっている場合は被相続人の兄弟姉妹と相続関係になります。
被相続人の親族と日頃交流がない場合には、遺産分割協議を行うハードルはどうしても高くなりますし、主な遺産が自宅不動産のみの場合だと、配偶者の住まいを確保するため代償金を支払う必要があり、自宅を売却せざるを得ない場合も考えられます。のこされた配偶者の老後の生活を思えば遺言書の作成が必要な典型例であるともいえます。
‣遺産が不動産のみ場合
上記でも少し触れましたが、不動産は原則として法定相続分の割合に基づいて相続人全員の共有となります。遺産のほぼ全てを不動産が占める場合、遺産分割協議の際に争いになりやすい傾向です。
協議がまとまらない間の固定資産税の負担や、不動産の利用・処分について共有者全員の同意が必要になります。放置していると、のこされた配偶者が亡くなってしまうなどの数次相続が生じ、解決困難な事案に発展しまう危険性があります。
‣離婚後、再婚している場合
先妻との間に子どもがいて、後妻(現妻)がいる場合、先妻の子どもと後妻が法定相続人となりますが、やはり遺産分割協議は困難と言わざるを得ないため、遺言書により遺産分割協議を経ることなく財産を承継させることができます。
また、正式に離婚はしていなくても、別居中で婚姻関係が事実上破たんしている配偶者がいる場合で子どもがいない事例では、被相続人の親または兄弟姉妹と配偶者の協議も困難なため、遺言書の作成をして遺産分割協議を避けることが望ましいでしょう。
‣財産を譲りたい人が法定相続人ではない(相続権がない)場合
法律上の配偶者ではない内縁の妻がいる場合や被相続人の長男が先に亡くなっていて、長男の嫁に被相続人が世話をしてもらっていたような事案では、内縁の妻や長男の嫁には相続権がありませんので、財産を譲りたいのであれば遺言書の作成が必要になります。
‣相続人の中に行方不明者がいる場合
遺産分割協議の際に、行方不明者のために不在者財産管理人の選任などの手続きを経る必要があるため、その報酬の負担や手続きに時間がかかってしまうことになり、遺産分割協議を経ることなく遺言書により手続きを進める方がスムーズな事案といえます。
‣事業を承継する者に事業用財産を承継させたい場合
事業承継の途中に事業者が亡くなった場合に、承継する子とその兄弟姉妹で事業用財産を分割すると事業が成り立たなくなる可能性がある場合は、事業を承継する者に事業用財産を承継させる遺言書が必要となるでしょう。
5,当事務所における直近の遺言活用事例
当事務所にご相談のあった事例をご紹介すると
- ご相談者は73歳男性(A)で妻(B)と生活していますが、2人の間には子どもはいません。
- (A)の財産は3,400万円の(A)(B)が住む自宅不動産(甲)と現金500万円があります。
- (A)の両親は既に亡くなっていますが、(A)には弟の(C)、(D)がいます。
- 夫である(A)は自身が亡くなったあと、妻(B)が安心して暮らせるように今できる対策をしておきたいと望んでおられます。
今回のご相談の場合、もし(A)が亡くなった場合、法定相続人は、妻である(B)+弟である(C)、(D)となり、法定相続分は、(B)が3/4、(C)が1/8、(D)が1/8となります。
(B)が(A)の死亡後も自宅不動産(甲)に住み続けるため、甲不動産の取得を望んだ場合、法定相続分を超える財産を取得することになりますので、(C)または(D)から500万円の現金の取得だけでなく、代償金の支払いを求められることも可能性としてはゼロではありません。
法定相続分での遺産分割協議において、(B)は代償金の支払いのために不動産の売却を迫られたり、家は残ったとしても今後の生活が行き詰まってしまう恐れもあります。
そうした事態をあらかじめ防ぎ、妻(B)が安心して生活できるように、(A)が生前に「甲不動産を含む一切の財産を妻(B)に相続させる。」という内容で、妻を遺言執行者とする遺言書を公正証書で作成することになりました。
兄弟姉妹には遺留分がないことから、全財産を相続させることができますので、最も有効な対策になります。
実際の遺言書原本とは異なりますが、内容として以下のような内容になりますのでご参考になればと思います。
6,まとめ
遺言書は、遺言者の最終意思を法的に実現する重要な文書になりますので、遺言書で書ける事項などのルールが厳格に定められています。いきなり書き始めるのではなく、遺言書を書くにあたって注意すべきポイントや、自身が亡くなった後にどんなことが想定されるのか、のこされた相続人のためにいかに配慮されたものを作成できるかは、相続対策の視点からもとても大切になります。
遺言書の作成はご自身でも行えますが、行政書士や司法書士といった専門家に相談するのも有効ですので検討してみてください。
「公正証書遺言」の作成なら当事務所へおまかせください
当事務所は、京都市を中心に関西全域で、公正証書による遺言書の作成や遺産分割協議書の作成など相続手続きの支援を専門とする行政書士事務所になります。
ご相談者様の思いを法的に有効な形に仕上げるにはやはり遺言書は公正証書で作成すべきです。
ご自身で公証役場へ足を運んだり、公証人と打ち合わせをするのは時間的にも精神的にも負担がかかるものです。
当事務所におまかせいただくことで、こうしたご負担を最小限にし、将来への備えを形にすることが可能です。
公正証書遺言を作成してみようとお考えの方は、まずはご連絡ください。
(オンラインによるご面談も可能です。)
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
行政書士はやし行政法務事務所
代表行政書士 林 宏雄
日本行政書士会連合会(第17271844号)
京都府行政書士会会員(第2655号)
京都府向日市寺戸町寺山12-1(向日市役所から車で2分)
電話:075-555-0513
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