遺言は、遺された家族が出来るだけ争うことの無いように、遺言者が相続の方法や財産の行き先を記載するのが一般的です。
それ以外にも、遺言者が亡くなった後、家族円満に過ごしてほしいなどの思いを記載することもあります。
そもそも遺言は、法律上一定のルールを守れば内容は自由に作成することができますので、それはつまり家族以外の人のために作成することも可能ということです。
それでは家族以外の人のために財産を遺す遺言についてご紹介したいと思います。
目次
6,まとめ
1,相続人以外の人へ財産を遺したい場合の遺言
冒頭に触れたように、相続の方法や財産、思いを家族に遺すのと同じように、遺言で家族以外の人に対して財産を遺すことを遺贈と言います。
社会貢献活動に役立てるために遺贈によって寄付することを特に遺贈寄付と言います。
世間を騒がせるニュースとして、特定の宗教法人に多額の寄付をするだとか、父が愛人に財産を遺贈してしまうようなドラマの様な場面も確かにゼロではないかもしれませんが、純粋に家族以外の人に財産を遺したいと考える方も多くいらっしゃいますし、素敵なことだなと思います。
<家族以外の例>
- お世話になった恩人、友人
- 医療、福祉施設
- NPO法人、公益法人といった団体
- 美術館
- 生まれ育った自治体
など様々です。
最近ではおひとり様の終活の一貫で遺言書を作られる方も増えてきていますし、作成しておくべきだと個人的には考えています。
他にも、家族はいるけど恩人に全財産をあげたいというケース、財産の内容によって、○○は家族に、□□は施設に、という形で遺言を作られる方もおられて様々です。
遺言書は根本的なことですが、遺言者本人の自由意思です。その方の人生や価値観といったものが全て反映されているなと感じますし、その意思通り収まるところ収まるように法的な面も含めて作り上げていく必要があります。
2,遺贈には2種類の方法があります
遺贈というのは、遺言書に遺贈の意思を記載することで特定の人や団体に遺産を贈与する方法を言います。
財産を渡す人を「遺贈者(いぞうしゃ)」、財産を受け取る人を「受遺者(じゅいしゃ)」と呼びます。
受遺者に制限はありあせん。法定相続人はもちろんですし、法定相続人以外の親族や先にも触れました各種団体などに対しても行うことができます。
遺贈の方法は、「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類がありますのでご紹介いたします。
包括遺贈
包括遺贈とは、「全財産の○割をAに与える」というように、贈与する財産の割合と相手を指定する遺贈のことです。割合は10割でも構いません。
包括遺贈の場合、プラスの財産だけでなくマイナスの財産(借金など)も引き継ぎますので、その点は注意が必要になります。
包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有するという民法の規定がありますので、相続人と同じように様々なルールが適用されます。
例えば、もし遺贈を受けたくない場合には、自分が包括遺贈を知ったときから3カ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をしなければなりませんし、また、相続した借金等の負債は相続した財産額までしか責任を負わなくて良くなるという限定承認をすることも可能ですが、限定承認をするためには、他の相続人や包括受遺者と一緒に共同してしなければなりません。
特定遺贈
特定遺贈とは、「A土地はBに遺贈する」というように、贈与する具体的な財産と相手を指定する遺贈を言います。
財産は常に変動するものなので、財産に変動があった場合には見直す必要がありますが、包括遺贈と異なりマイナスの財産を引き継ぐことはありませんので、遺贈するのであれば特定遺贈をお勧めします。
特定遺贈の場合は、受遺者は遺言者の死亡後いつでも遺贈の放棄をすることができます(民法986条1項)。
ただ、遺贈を受けるのかどうかはっきりしないと、その他の相続の手続きを進めることができません。
そのため、相続人などの利害関係者は、受遺者に対して相当期間を定めて遺贈を承認するか放棄するかの回答を求めることができ、期限内に回答がない場合は、遺贈を承認したものとみなすことができるとされています(民法987条)。
遺贈に、
- ○○の介護をすることを条件に財産を遺贈する
- ペットの飼育をする代わりに財産を遺贈する
といった条件等をつけることもできます。
これを負担付遺贈と言い、もし負担が履行されない場合には、相続人が履行を請求し、それでも負担が履行されない場合には、相続人は、その負担付遺贈を行った遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができます(民法1027条)。
3,寄付先の探し方と注意点
遺産を寄付したいと思う場合は、まず寄付先を探すことからはじめます。
具体的な寄付先が決まっていない場合は、どんな分野への支援ができるのかということを考えると良いと思います。
自分が興味の持てる研究分野、子どもの育児や生活支援、介護や病気の支援、母校や生まれ育った自治体への支援などが考えられます。
思い浮かばない場合はインターネットなどを利用するのも一つです。
遺贈の寄付先として、活動分野別に紹介しているサイトなどもあります。
しかし注意が必要なのは、信用しがたい団体もあるということです。
定期的な報告書などをチェックしたり、NPO法人や公益法人としての認定をちゃんと受けているかどうかを確認したりすることが重要です。税制優遇を受けている団体であれば、国または地方公共団体が活動内容を審査しているので、安心して寄付することができるでしょう。
また、寄付をすることによって、(相手側に)税金が発生する場合や特例が受けれる場合など、税務上の問題もありますので、税理士さんに相談されるのもよいですし、そもそも寄付した先が受け入れてくれるかどうかという問題もありますので、直接寄付先に問い合わせて確認しておくと間違いありません。
4,遺贈を行うための注意点
遺贈をする上で考えておかなければならない注意点があります。
それは遺留分です。
遺留分とは、一定の範囲の法定相続人に対して、法律上で最低限取得することが保障されている、相続財産の割合のことです。詳しくは「遺留分って何?」参照
ここで言う「一定の範囲の法定相続人」とは、兄弟姉妹を除く法定相続人を指しています。
遺留分の割合は次のとおりです。
相続人 | 割合 |
1. 子のみ | 2分の1 |
2. 子と配偶者 | 2分の1 |
3. 直系尊属(父母、祖父母など)のみ | 3分の1 |
4. 直系尊属と配偶者 | 2分の1 |
5. 配偶者のみ | 2分の1 |
6. 配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者についてだけ2分の1 |
遺留分権利者が複数人いる場合には、2分の1または3分の1に、それぞれの法定相続分を乗じた割合が、それぞれの遺留分となります。
このような遺留分を有する相続人は、遺贈や死因贈与により遺留分を侵害された場合、遺贈や死因贈与を受けて遺留分を侵害した受遺者・受贈者に対して遺留分侵害額請求を行うことができます。
相続人がいるものの財産を相続人以外の人に寄付したいと考えた場合には、遺留分を侵害しない範囲で寄付をしなければ、遺留分侵害額の請求がなされる可能性が高いので注意が必要です。
5,遺贈を確実に行うためには遺言執行者を定めましょう
遺贈に限った話しではないのですが、遺言の内容を確実に実現してもらうためには、遺言執行者を定めておきましょう。
もし遺言執行者を指定しないと、相続人が遺贈の指示を無視して勝手に遺産を使い込んでしまう可能性もゼロではありません。
遺言執行者は相続人の一人を指定することもできますが、それでは上記のリスクを避けられないので、弁護士や行政書士など相続の専門家を指定しておくのがベストです。
同時に、遺言執行者をお願いする専門家と一緒に、寄付先となる団体に出向いて話し合いの機会を持たれることをお勧めします。
寄付先によってはお金の寄付はOK、不動産はNGなど、条件が異なる場合や制限があることがありますので、遺言者の希望と寄付先との間ですり合わせが出来ていれば、より確実に希望通りの遺贈寄付を実現することができます。
そして、専門家の支援を得て遺言書を公正証書の形にしておくと尚良しです。
自筆証書遺言では紛失などのリスクも考えられますが、公正証書であれば紛失の恐れもなく(原本は公証役場に保管されている)、法的にも有効な間違いない遺言書が完成して安心です。
6,まとめ
今回の記事のポイントは以下の通りです。
- 遺贈するなら特定遺贈がお勧めです。
- 内容によっては税金が発生する場合や遺留分に注意が必要です。
- より確実に遺言を実行してもらうために遺言執行者を指定しておきましょう。
- 寄付先が遺贈の受け入れが可能か確認し、できれば遺言執行者と共に出向いて打合せの機会を設けておきましょう。
- 遺言書は公正証書で作成しておくと安心です。
相続人以外の人のために遺す遺言についてご紹介させていただきました。
遺贈を検討されておられる方の参考になれば幸いです。
最後までお読みくださりありがとうございました。
行政書士はやし行政法務事務所
代表行政書士 林 宏雄
日本行政書士会連合会(第17271844号)
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