目次
1. 事実婚とは
【事実婚】というのは、婚姻届を提出せずに、婚姻の意思と夫婦としての実態を持ち共同生活している状態を言い、内縁関係とも言われています。
これに対して【法律婚】は婚姻届を市区町村役場に提出し、法律上の婚姻関係が認められ、戸籍上も夫婦である婚姻をいいます。
ポイントは婚姻届を提出しているかどうかが一番の違いになります。
それでは「同棲」と「事実婚」はどう違うのでしょうか。
「同棲」は、一般的には婚姻の意思を持っておらず一時的な共同生活を送る場合も含まれていますので、「事実婚」とはやはり異なります。
2. 事実婚と法律婚の違い
事実婚と法律婚では婚姻届を提出している否かという違いがありますが、実生活を送る上での違いもあります。
例えば、事実婚は法律上の夫婦ではありませんので、婚姻のように同じ戸籍に入ることはできません。
また、法律上の夫婦の間に生まれた子は「嫡出子」とされ、法律上当然に父子関係が生じますが、法律婚ではない男女の間に生まれた子は「嫡出でない子」または「非嫡出子」とされ、父子関係は法律上当然には生じません。
一方で母子関係は出産により当然に生じますが、法律上の父子関係を生じさせるためには、認知手続きをすることが必要になります。
さらに、法律上の夫婦は、一方が死亡した場合、法律上当然にお互いの相続人になりますが、事実婚の夫婦は、当然にお互いの相続人となるわけではありません。
お互いに財産を残すためには、遺言書による遺贈や生前贈与、死因贈与などの方法がありますが、法律婚をしている配偶者が相続・贈与した場合に受けられる相続税・贈与税の各種特例や控除は、事実婚では受けることができません。
このように、事実婚には法律婚と様々な違いがありますが、婚姻の意思と夫婦の実態はありますので、法律婚と同様に、同居の義務、扶養の義務、婚姻費用(生活費)の分担義務、事実婚解消時の財産分与などは認められると考えられています。また、事実婚でも健康保険の被扶養者になることができますし、遺族年金の支給を受けることもできます。
法律婚と同様の効果が得られる権利・義務
- 同居義務、扶養義務
- 婚姻費用(生活費)の分担義務
- 貞操義務
- 事実婚解消時の財産分与
- 事実婚解消時の慰謝料請求
- 社会保険
- 遺族年金
法律婚と事実婚の違い
法律婚 | 事実婚 | |
戸籍 | 同じ戸籍に入る | 同じ戸籍には入ることはできない |
住民票 | 「夫・妻」と記載される | 手続きをすれば「夫・妻(未届)」と記載される |
認知 | 婚姻中に生まれた子は嫡出子とされ、別途認知は不要 | 子が生まれた場合、父子関係が認められるためには認知が必要 |
税制上の優遇措置 |
|
なし |
相続関係 | 互いに法定相続人になる |
互いに法定相続人にならない →遺言書で財産の承継は可能 (参照「遺言の方式について」) |
法定後見 | 配偶者として申立てが可能 |
法定後見の申立てはできない →任意後見契約は可能 (参照「任意後見制度とは」) |
病院での手術同意 | 可能 |
現状、認められないケースがほとんど →公正証書作成により可能な場合もある |
死後の手続き | 可能 |
親族としては不可 →死後事務委任契約で可能になる (参照「死後事務委任契約とは」) |
事実婚は法律婚と異なり相続関係や各種手続きにおいて認められないケースが多いですが、遺言書や任意後見契約、死後事務委任契約などの事前対策を講じることによって法律婚と同様の効果を生じさせることが可能になります。
3. 事実婚のメリットとデメリット
ご夫婦の状況によっても異なりますが、主に考えられるものは以下の通りです。
メリット
- 夫婦別姓なので旧姓のまま生活でき仕事にも影響が生じない。
- 婚姻によって生じる、相手の親・親戚付き合いから距離を保てる
- 別れても戸籍に履歴が残ならい
デメリット
- 法律婚は入籍日が確定しているが、事実婚の場合はそれを証明しづらい。
- 子どもが生まれても夫婦そろって共同親権者になれない。(母親が親権者になる)
- 相続権がなく、夫・妻が死亡しても財産を承継できない。
- 配偶者控除などの税制優遇が受けられない。
4. 事実婚をするための手続
婚姻意思や夫婦としての共同生活があれば事実婚は成立しますが、法的手続きや社会的サービスを受けられるようにするには、事実婚であることを証明できるようにしておくこと、これが最低限必要になると思います。
少しでも証明力を高めるための手続きをご紹介します。
❶ 「世帯変更届」で世帯を同じにする
「世帯変更届」は、住民票の住所は変わらず世帯の構成を変更する手続きです。
この手続きで世帯を1つにし、続柄に「世帯主」と「夫(未届)」または「妻(未届)」を記載して、事実婚であることを分かるようにしておきます。
❷ パートナーシップ制度を利用する
「パートナーシップ制度」は、現在100を超える自治体に広まっています。
元々は同性カップルを対象とした制度でしたが、現在一部地域では異性間の事実婚夫婦にも利用が認められています。同性・異性に関わらず、自分たちが住んでいる地域でパートナーシップ制度を利用できるのであれば、事実婚の証明としての利用を検討してみましょう。
❸ 遺言書を作成する
事実婚の夫婦は、お互いに相続権がないので、夫が亡くなったときに妻が不動産や預貯金を相続できず困ってしまうケースもあります。そのような状態を防ぐため、婚姻時からお互いに死亡したときには遺産を相手に渡す等の内容の遺言書を書いておくとよいでしょう。
❹ 公正証書で夫婦としての約束事を残す
事前に話し合った内容や約束ごとを公正証書として残しておくのも良いでしょう。
「公正証書」とは、公証人が作成する公文書で高い証明力があります。
夫婦で話し合った内容や約束事などを公正証書として作成しておくと、法的手続きなどの際にスムーズに進みやすくなります。
また、作成を通じて様々な約束事を共有し見える化しておくことで、事実婚後の2人の共同生活をイメージしやすくなることも期待できます。
5. まとめ
時代が移り変わるにつれて家族や夫婦のあり方も多種多様に変化し、事実婚夫婦も増えています。
こうした社会や意識の変化に国の制度も変わっていくことで、法律婚と同様の効果を得られるようになってきました。
しかしまだまだ制約が多いのが現実かもしれません。ただ、少しずつでも状況は前向きに変わっていくはずです。今ある制度を十分に活用しながら事実婚を選択するご夫婦も幸せに生活できるよう、そのための事前対策があることをぜひ知っていただきたいと思います。
当事務所は、京都市を中心に関西全域で、遺言書や公正証書作成支援など親族法務を専門にしている行政書士事務所です。パートナーシップ制度についてもご対応させていただきますので、お気軽にご相談ください。
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行政書士はやし行政法務事務所
代表行政書士 林 宏雄