様々な行政手続きにおいて押印が不要な場面も増えてきました。
自筆証書遺言の作成において押印の取扱はどうなのでしょうか。今回は遺言書の押印についての話題です。
目次
1,自筆証書遺言も「脱ハンコ」なのか
内閣府では令和2年12月18日に「地方公共団体における押印見直しマニュアル」を作成し、押印見直しの基準などを明確にして押印廃止への促進を行っています。
自治体ごとに押印廃止に向けて取り組んでいますので、お住いの市区町村によって多少取り扱いが異なる場合もあるかもしれませんが、比較的馴染みのある戸籍謄本や住民票などの請求手続きに関しては押印不要の自治体も増えていると思います。
その他、年金手続きや相続税の申告書への押印も不要となっていますし、行政手続きに関わらず私生活における様々な場面でも「脱ハンコ」が進んできているように感じます。
私のメイン業務であります公正証書遺言の作成についてはどうかというと、これまで通り押印が必要です。
つまり公正証書作成日に公証役場へ実印を持参し、押印する必要があります。
それでは、自筆証書遺言の場合はどうでしょうか。
結論はやはり「押印は必要」になります。
2,自筆証書遺言の方式
遺言は、民法の定める方式に従ってしなければならず、方式違反の遺言は無効とされています。
そして、自筆証書遺言の方式は、遺言者が遺言事項、日付、氏名を自署し、さらに押印を要するものと定められています。
ただし、平成30年の民法改正によって、遺言事項については従前どおり自書を要する一方で、添付される財産目録については自書は要せずパソコン等による作成でも構わないことになりました。(前回記事「遺言書と一緒に作っておきたい財産目録の書き方と注意事項」参照)
パソコンで作成可能といっても、目録の各ページ(両面に記載があるときはその両面)に署名、押印を要することになりました。
★民法960条★
遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。
★民法968条★
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
★同条2★
前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3,押印が必要な理由
自筆証書遺言の方式として自署のほか押印を要するとした理由の1つは、自署とあいまって遺言者の同一性と真意を確保することにあります。
もう1つは、重要な文書については、作成者が署名したうえ押印することによって文書を完成させるという日本の慣行ないし法意識に照らして、文書の完成を担保することにあるということが最高裁の判例として述べられています。
ポイントは、「遺言者の同一性と真意の確保」と「日本の慣行ないし法意識」にあります。
押印を要求しておけば、遺言を書いた者を特定しやすくなりますし、さらには遺言者の意思に基づいて作成されたことが予想できます。
そして日本では、重要文書には「押印」をするというのが一般的ですから、自筆証書遺言でも押印が要求されているということです。
4,押印がないと遺言は無効なのか
これまで述べてきた内容通りですが、民法で定められている通り、押印がない自筆証書遺言は無効となります。
無効となりますが、過去の最高裁判例で、
「署名はあるが押印を欠く英文の自筆遺言証書であっても、遺言者が押印の習慣を持たない帰化者である等の事情の下では、有効である。(最判昭和49年12月24日)」というものがあります。
押印がない自筆証書遺言が有効であると判断された内容ですが、あくまでよっぽどの事情がある場合ですので、やはり押印がない遺言書は原則無効になりますので、必ず押印しましょう。
5,押印するなら実印?認印?それとも指印でもいいの?
民法が定める様に遺言書の「押印」は必須であるとしても、それが印鑑登録されている実印が求められているのか、百均で買ってきたような認印でもいいのか、それとも指印でもよいのかという問題があります。
実はいずれも認められています。
「自筆証書における押印は、遺言者が印章に代えて拇印(ぼいん)その他の指頭に墨・朱肉等を付けて押印すること(指印)をもって足りる。」とする最高裁判例があります。
もちろん認印も認められることになります。
ただし「花押(かおう)」を書くことは、押印の要件を満たさないとされています。
(花押とは、自署のかわりに書く記号のことをいいます。日本大百科全書より引用)
6,まとめ
遺言書への押印についてご紹介させていただきました。
ルール上は実印、認印、指印など幅広く認められているところですが、私が関与させて頂く場合ですが必ず実印(+印鑑証明書)で押印いただくようお伝えしています。
なぜなら、遺言書の有効性が争われてしまう事態になってしまった場合に、少なくとも実印と印鑑証明書があれば、本人が作成したという点においては有効と判断される可能性が非常に高いからです。
遺言書というのは財産の分け方をどのようにしたいのかを記すとても大切なメッセージです。
自筆証書遺言を作成する際は出来るだけ実印(+印鑑証明書)で押印しておきましょう。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
行政書士はやし行政法務事務所
代表行政書士 林 宏雄
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